[特集] インタビュー

言語化と可視化で、
先生同士のブレない軸をつくる。

岡山大学 准教授中山 芳一

資質明確化プログラムの監修者であり、多数の学校を対象に実践されてきた岡山大学の中山先生。
資質や能力の明確化の大切さと、それを行うためのプログラムについて、お話を伺いました。

プロフィール

中山 芳一YOSHIKAZU NAKAYAMA

岡山大学 准教授

1976年岡山県生まれ。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるよう尽力。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。

資質明確化プログラムが必要とされるのは、教育現場のどのような変化が背景にありますか?

文部科学省の学習指導要領変更が、大きく影響しています。学びに向かう力や人間性を育むことへも力点が置かれるようになり、これまでのような教科ごとのテストの点数で評価できるものとは区別し、「非認知能力」と言われる能力が重要視されるようになりました。テストの点数で表わせないとはいえ、何らかの形で可視化されなければ現場での運用はできません。学びに向かう力とは何なのか。人間性を育むとはどういうことなのか。それらを可視化するためのものが、資質明確化プログラムです。

プログラムの内容を具体的に教えてください。

学校長から現場の先生まで、生徒たちと関わる多くの方が一緒に参加した状態で、非認知能力の可視化に取り組んでいくプログラムです。ポイントとなるのは、それぞれの持つ学校の理念。もともと、学校にはテストの点数で測れるものとは別に、育むべき能力が掲げられています。たとえば「質実剛健」や「文武両道」など、どんな学校も持っているものでしょう。校訓や学校目標といった名前で掲げられているものもあるかもしれません。その理念を紐解いていくのがこのプログラムです。ただ掲げられているだけのものにせず、その理念を解釈したり、具体的な行動に落とし込んでみたり。誰かひとりが定義してしまうことはしません。多くの人が関わり、みんなで議論をすることが重要です。非認知能力とはどういうことなのか。自分たちの理念はどのようなものなのか。議論をしながら考えを深めるプロセスそのものに重きを置くプログラムです。

プロセスそのものに意味があるのはなぜですか?

先生たち同士のギャップを埋めるためです。同じ学校の先生とはいえ、それぞれに考え方が違うでしょうし、新たな学習指導要領をどのように捉えるかも様々でしょう。プログラムを通じ対話を重ねていくことで、認識を揃え、共通言語を生み出す狙いがあります。同じ学校理念を同じように解釈し、同じように指導の中に活かし、同じ言葉で児童・生徒へ伝えていけるようにするのです。もちろん新しい学習指導要領実施に向けてだけではなく、業務や教育そのものに対する考えのギャップを埋める機会にもなると期待できます。いま学校の先生は、50代以上と30代前半の方が多く、真ん中の世代が少ない。どうしてもジェネレーションギャップが生まれやすくなっている状態です。膝を突き合わせて考えを共有する機会を持つことで、年代間にあった溝を埋めていくことができるのではないでしょうか。

プログラムのポイントはどんなところにありますか?

対話し、言語化することです。学校の理念を、絵に描いた餅で終わらせない。ただ掲げられているだけで、誰も覚えていないようなものにしていてはいけません。自分たちで説明できるようにする。行動にまで落とし込んで理解することができる。自分たちの手で、言葉にしていくことが重要です。そうすることで学校理念は、チームの強い軸となります。先生方にとって、ひいては生徒にとっても、可視化された確かな軸が必要なのだと考えています。